2009年02月05日

海自はシーレーンを防衛できるのか?

産経新聞の電子版『いまさら「海賊の定義」議論』によると、2月3日に民主党内で「外交防衛部門会議」を開き、ソマリア沖の海賊被害の実態について外務省、防衛省、海上保安庁からのヒアリングを行ったという。 産経新聞は、『ようやく対応の検討に入った民主党は、藤田幸久参院議員が「海賊の定義は何か。犯罪なのか。テロなのか。組織性はあるのか」と外務省に問いただせば、谷岡郁子参院議員も「まず民間船舶会社の自己責任と国の責任の区別をきちっとすべきだ」と主張するなど、「そもそも論」が噴出し、寄り合い所帯ゆえに党内でも見解は真っ二つ(要約)』と民主党の海賊問題への対応の遅れを非難する論調で報道している。 加えて、どこの誰の発言かは分からないが、『自民党からは「民主党はいまごろ『海賊って何だ』という議論をしていて、大丈夫なのか」とあきれる声が上がっている。』と産経新聞の記事は民主党にダメ出しする念の入れようだ。(ちなみに、国会の外交防衛委員会等ではなく、この会議はあくまでも「民主党内の会議」であり、自民党議員が出席した訳ではない。)

でも、まあ、少し呆れたくなる状況ではある。 「日本の新たな国際貢献の有り方(08/10/17)」にも少しだけ書きましたが、そもそも昨年10月17日の「衆院テロ防止特別委員会(新テロ特措法改正案審議)」に民主党は『アフガニスタン復興支援特別措置法案』提出し、その中には「国際連合の決議に基づくテロ対策海上阻止活動に対する参加の検討」として海賊行為の多発に対する対策検討を謳っていたはずだ。 また、民主党の長島昭久氏が、「ソマリア沿岸、アデン湾での海賊行為の阻止活動」についての必要性を提言していたはずだ。 だが、確かに民主党内での議論はそれ以降進んでいないようだ。


しかし、政府・与党も民主党を嗤っていられないはずだ。 自民、公明両党は1月9日になって漸く「海賊対策等に関するプロジェクトチーム」の初会合を開いたばかりで、こちらも議論が進んでいるとは言い難い。 実際、昨年の4月に日本郵船所属の「高山」がRPGか何かにより被弾し、昨年4月23日の第169回国会の国土交通委員会(第15号)でも議論に上がっている。 (何故「安全保障委員会」で議論せず「国土交通委員会」での議論なのかは疑問ですが・・・。 もっとも、私も全ての委員会議事録を読んでる暇は無いから・・・(苦笑))


そもそも、それ以前に、昨年4月〜5月にスエズ運河へ向けてアデン湾を航行する、日本の豪華客船・世界一周クルーズ船の護衛を要請するために外務省は動いていたと聞く。 しかし何故、国交省、防衛省という行政所管では無く「外務省」が活発に動いていたのか・・・。

そこには、国連の安保理決議の存在がある。

今回、改めて海上自衛隊の護衛艦の派遣が浮上したのは、元を正せば、今春また、郵船クルーズの「飛鳥U」(乗員乗客約1100人)や、日本クルーズ客船の「ぱしふぃっくびいなす」(乗員乗客約600人)といった世界一周クルーズ客船がソマリア沖・アデン湾を通過するから、との報道がある。 派遣予定と見られる護衛艦「さざなみ」「さみだれ」の母港のある広島・呉の地元誌、中国新聞の電子版『豪華客船護衛へ月内準備指示』でも、『政府関係者が「タンカーや貨物船はある程度の自衛策を講じているが、客船は脆弱だ」と海自艦の派遣を急ぐ必要性を強調』と伝えている。 しかし、その発言には、安保理決議との関係は元々ない。 2隻の客船だけなら、海上保安庁の艦艇でも護衛できるだろう。 フランスから日本へ貨物船を護衛した実績もある。


ところが、護衛任務についての見当や現地視察派遣など、先行する外務省に対し防衛省の浜田大臣とが待ったをかけたのである。 命令権者である浜田防衛大臣が、派遣の根拠となる「国連安保理決議」を所管する外務省主導で進んでいた政府調査団派遣に待ったをかけ、海上自衛隊に準備指示を出さなかったため、海自も派遣準備を進められなかったという。 大変な時間的ロスである。


そもそも、現在も、護衛艦がどのような「任務」と「活動」を担うのか、概要案すら国民に示されていない。 第一、現行法では「日本関係船舶に該当しない船舶は護送できない」となっているが、他の外国籍船などについても麻生総理が「他国の船は助けませんではいかがか?」という一言で、日本に関係無い船舶が襲われている時の救援も考えなければならなくなった。 麻生総理の言うことは、情として理解はできる。 しかしそのことで、保護対象は日本籍船の92隻を合わせ日本関係船舶約2300隻まで膨れ上がり、その上日本に関係無い船舶にも海自は気を掛けねばならない。 海自には大変な負担だ。

しかも、政府は船団を組み複数船舶をまとめて護送する方針だと聞くが、この船舶数をたった2隻の護衛艦では護送体制を組めないだろうことは素人の私でも分かる。 「アデン湾の通過には船で1日半かかる」(海自幹部)と言われ、2隻で船団を挟む形の護送だと3日に1度しか護送を行えない。 護送頻度を増やすため、海自では海賊多発海域の両端から1隻ずつで護送することも検討しているらしい。 つまり、インド洋からスエズ運河(仮に下りとする)に向かう船団に護衛艦を1隻付け、逆の上りの船団に護衛艦を1隻という布陣だ。 それで、本当に民間船をエスコートしきれるのか? 例えば、日本として護衛すべき「飛鳥U」や「ぱしふぃっくびいなす」を海上自衛隊は守りきれるのか?

仮に自衛隊の護衛艦が上り下りの船団に1艦ずつ併走しているとしよう。 船団には護衛は1隻である。 それでも近海で海賊に襲われた他の艦船から救難を求められれば、海自護衛艦は救助に向かわねばならない。 しかし、それは実はデコイ(囮)で、護衛艦が離れた隙に船団やクルーズ客船を海賊に襲われた場合どうするのか? 船団の民間船は自力で海賊を排除せねばならない。 護衛艦は遠く離れていないのだ。

つまり、政府与党案の「海上自衛隊の護衛艦派遣2隻」では、とてもじゃないが日本関係船舶すら護衛するのにも不足する艦数なのである。 もし、隙を狙われ、海賊に客船の乗客を人質に取られれば海自護衛艦といえど手も足も出まい・・・。 他国が行うハイジャック制圧と同じように、乗客に死者が出ることを覚悟で海自は突入するのか? それはあり得ないだろう。 海自はそのための訓練はしていない。 同乗するといわれる海上保安庁の部隊も、タンカー・貨物船の占拠対策はまだしも、乗客が500人、1000人と多い客船は対応できまい。

確かに、軍艦に勝負を挑む海賊はいないと思う。 しかし、最悪の事態の状況をどこまで想定し、その事態に遭遇した時どう行動をとるのか・・・、それに対処するための訓練は充分なのか。 実際はできてないだろう。 私は、今回の護衛艦派遣計画は、極めて不安だらけのものではないかと思っている。 



また、海上自衛隊の護衛艦派遣の根拠の1つに「国連の安保理決議」があるのだが、この決議も、ソマリアについては日を追う毎に踏み込んだ内容になっている。 当初は「ソマリア沿岸、アデン湾での海賊行為の阻止活動」であったものが、現在の安保理決議第1851号「ソマリア情勢に関する決議(08/12/16)」では、海賊行為の防止に向け、各国は「ソマリア国内で必要とされるあらゆる措置を取ることができる」と踏み込んでいる。(相変わらず、安保理決議の和訳文は読むのに難解だが・・・苦笑) つまり、ソマリア国内での軍事行動も許容しているのだ。 しかも、ソマリアの暫定政府のユスフ大統領が12月29日、辞任してしまった。 今後のソマリア国内の情勢は、更に不安要素が大きくなりうる地域なのだ。

以上のことを勘案すると、現実の話として、最初に紹介した産経新聞の記事のように、自民党関係者が「いまごろ『海賊って何だ』という議論をしていて、大丈夫なのか」と嗤っていられるはずはない。

海上自衛隊の護衛艦を、武力を伴って派遣するからには『海賊って何だ』という根本論、派遣に向けての基本的事項をきちんと定義しておくことはあたりまえだ。 そうでなければ、気が付いたら、安保理決議の下とはいえ、ソマリアの治安維持活動にまで巻き込まれていたという状況にもなりかねない(極論だが)。

それから、守りきれない可能性があり、かつ、海賊に襲われれば人的被害が大きい船舶、例えば先に挙げた「飛鳥U」や「ぱしふぃっくびいなす」といった客船などの船舶は、危険なアデン湾・スエズ運河経由を避け喜望峰経由にさせるなど、「民間船舶会社の自己責任」を事前にはっきりさせておくことも重要なことなのだ。 守りきれませんでした・・・で済まないのだ。 

つまり、「そもそも論」をきちんと整理し、さまざまな事態を想定した訓練を積んでおかないと、護衛艦の派遣は反って仇になりかねない。 例えば、海賊とみて乗員を拘束したり、また、銃撃戦になった場合、『相手は海賊だった』と「証明する義務」は日本の自衛隊側にあるのだ・・・。 もし間違ったら国際問題にもなりかねない。

本来、3月、4月に派遣をするなら、今年になって「海賊対策等に関するプロジェクトチーム」で議論を始めた自公与党の対応も遅すぎるのだ。



ちなみに・・・、最初に紹介した産経新聞の記事中の、民主党の藤田議員や谷岡議員が、これまでに私が書いた事柄などを考えて行政サイドに質問してるとは、私にも思えませんがね。 やはり、単に無知なだけかと・・・(笑)。
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posted by 少彦梛 at 23:53| Comment(0) | 軍事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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