2008年11月23日

社会的常識の欠落?

今頃取り上げるのは遅いのだが、政府が19日に主催した全国知事会議において、麻生総理は「(医者は)最も社会的常識がかなり欠落している人が多い」と発言した。 未だ、本会議の議事録が公開されていないが、共同通信の電子版『首相の医師をめぐる発言要旨』によると、地方の医師不足について、
「医者の確保をとの話だが、自分で病院を経営しているから言う訳じゃないけど、大変ですよ。はっきり言って、最も社会的常識がかなり欠落している人が多い。ものすごく価値判断が違うから。それはそれで、そういう方をどうするかという話を真剣にやらないと。全然違う、すごく違う。そういうことをよく分かった上で、これは大問題だ。」
と述べたという。 この発言以前の11月10日に、二階経済産業相が「政治の立場で申し上げるなら、何よりも医者のモラルの問題だと思う。忙しい、人が足りないというのは言い訳にすぎない」と発言し、各所から抗議の末、発言の撤回に到ったことを知らないのだろうか? まあ、麻生氏は新聞を読まないそうだから(笑)。


まず、麻生総理の言う「自分で病院を経営している」となんだろう? 恐らく、弟の麻生泰氏が経営している「株式会社麻生」の医療事業の1つ、麻生飯塚病院などの病院を指しているのだろう。 別に、麻生総理が経営してるのではない。 まあ、株主であるとは思うけど。 その「株式会社麻生」が、新しく病院事業に乗り出すのだが、これこそ「社会的常識の欠落」ではないのか? リンク先が無いので、以下に、日刊ゲンダイの記事を転載する。

「麻生病院建て替え計画に川口住民が大激怒」 日刊ゲンダイ2008年10月16日(15日発行)

麻生首相の実弟が経営する「麻生グループ」が埼玉県川口市で進めている病院建て替え計画に地元住民が大激怒だ。高さ100メートルのマンションの併設が発覚。「話が違う」となっているのだ。

 問題の舞台になっているのは、1959年に開業した「川口工業総合病院」。経営母体は、地元の鋳物・機械産業で構成する健保組合で、数年前から施設老朽化で建て替えを検討してきた。だが資金不足で自力再建を断念、新たな譲渡先を探していた。

「そこに突然、現れたのが、麻生首相の実弟・泰氏が経営する麻生グループ『株式会社麻生』でした。組合側は、渡りに船とばかり、この話に飛びついたのですが、その後明らかになった計画では、高さ30メートルの病院棟に隣接して高さ100メートルの高層マンション建設まで示されたのです。病院は必要ですが、高層マンションと一緒となると話は別。みんなカンカンです」(地元住民)

 一帯は「準工業地域・特別工業地域」で、市の基準で容積率が決まっている。今回の計画は明らかにこれをオーバーするが、麻生らは市に対し容積率などの変更を要望。市は受け入れる考えを示している。

「市は、公的負担がゼロで病院改築ができる――との理由で、建設計画をお膳立てしています。住民説明会も形だけで、説明に来るのはゼネコン担当者。しかし、近隣住民にとって、高さ100メートルのマンションが建つ圧迫感はハンパじゃない。わざわざルールを変える必要があるとは思えません」(前出の住民)

 こうした声に対し、川口市は「市の景観計画では高さ100メートルまでの建設物は認められていて問題ない」(都市計画課)と素っ気ない。一方の麻生は「(計画反対など)いろいろなご意見があるのは聞いているが、現時点でコメントは差し控えたい」とダンマリだ。

<以上転載終わり>

立ち行かなくなった病院の譲渡を受け、新たに経営を引き継ぐのは異論ない。 しかし、もともと市の基準で容積率が決まっているところを枉げてまで高層マンションを建設しようとするのは、社会的常識の欠落ではないのか? マンションを建てるな、とは言わない。 だが、既に定まっている容積率を超えた計画を立て、市ではなくゼネコン担当者がその説明を周辺住人にするのはオカシナ話なのではないか? しかも、都市計画の変更が決定する前に! そもそも都市計画の変更についての住民説明は、川口市役所にその責務があるはずだ。

また、その川口市役所も「川口工業総合病院地区都市計画の縦覧のお知らせ」にあるとおりで、一応「計画案」とは言ってるが、高度利用地区計画書の資料「川口都市計画高度利用地区の変更」を見ると、既に『川口市決定』と書いてある。 市には市の理由があるかもしれないが、明らかに周辺住民の意思を無視し、企業と役所の談合出来レースと・・・しか思えてならない。

これが「社会的常識」なのか? 大きな疑問が生じる。


さて、麻生総理の発言に話を戻そう。

全国知事会の席で
1.「(医者は)社会的常識がかなり欠落している人が多い。ものすごく価値観が違う」
と発言し、その夜のぶら下がり会見で、
2.「医者は友達にもいっぱいいるが、おれと波長が合わねえのが多い。そういう意味では全くない。まともなお医者さんが不快な思いをしたというのであれば申し訳ない。」(つまりは、麻生総理と波長が合わない人物は全て「社会的常識がかなり欠落」しているということか?)
と釈明。 翌20日、日本医師会が首相官邸に赴くと
3.「価値観が違うことを強調したかったが、まったく言葉の使い方が不適切だった。」
と陳謝し、撤回。 その日の夜、記者団に対し
4.「丁寧に真意を説明し理解をいただいた。」
会談内容を問われると
5.「発言の内容を私からあなたに説明する必要はない」
という。
このように、麻生総理の『真意』がどこにあったのか、国民への説明は皆無だ。 麻生総理が、医療の第一線で奮闘している誠意と義務感に溢れ、「社会的常識」の範疇外で頑張ってる医師達をどう思っているのか、感謝してるのかが国民にはちっとも分からない。

しかも、河村建夫官房長官は記者会見で「首相の旺盛なサービス精神が勇み足をしたのかなという思いもする」と擁護してるが、総理大臣は顧客を接待する営業の「太鼓持ち」ではない。 政府の活動に影響を与えかねないサービス精神をしない様諌めるのも官房長官の仕事ではないか。 それができないなら、さっさと辞任したらどうか。


もうひとつ、先にあげた共同通信の電子版にある、麻生総理の発言、
「小児科、婦人科(の医師不足)が猛烈に問題になっているが、これは急患が多いから。急患が多いところは皆、人が引く。点数が入らない。点数を変えたらいいんです。」
との発言だが、これも自称「自分で病院を経営している」麻生総理の事実誤認ではないか? 

急患、救急など時間を問わない医療現場から医師が引いていくのは、その過酷な職場環境にある。 彼らは、日中通常勤務をこなし、夜間の当直勤務を行い、翌日も日中勤務を行う。 36時間から40時間、ぶっ通しで仕事をするのだ。 医師不足もあって、月300時間勤務はざらのようだ。 つまり、一般の企業でいうと残業時間は月100時間をゆうに越える。 これが1年通して行われるのだから、明らかに労働基準法違反だろう。 しかも、時には医療過誤とされ、訴訟沙汰に成り、最悪の場合は刑事訴追すらありうる。

本来、夜間の勤務(当直)は「宿直勤務」扱いという。 労働基準法で用いられる「宿直、または、宿日直」は、
「夜間休日において、電話対応、火災予防などのための巡視、非常事態が発生した時の連絡などにあたることをさす。  医療機関において、労働基準法における宿日直勤務として許可される業務は、常態としてほとんど労働する必要がない業務のみであり、病室の定時巡回や少数の要注意患者の検脈、検温等の軽度または短時間の業務に限る。 夜間に十分な睡眠時間が確保されなければならない。  宿直勤務は、週1回、日直勤務は月1回を限度とすること。」(厚生労働省の通達)
私も、医師の当直は「夜勤」扱いと思っていた。 ところが、多くの、救急指定や産科医、小児科医は夜間の当直はこの「宿日直」扱いと聞く。 つまり、22〜翌9時の間は「宿直」なので「勤務時間」に含まれず「宿直手当て」が出てるだけ。 実際、法定賃金でいっても、夜間勤務と比べ「宿日直」扱いならその手当ては雲泥の差だ。 しかも、医師不足で周辺の病院は救急業務から撤退し、救急患者は特定の病院に集中することになるから「宿直」といいつつも医師には寝る暇などほとんど無いのが実状だろう。 しかも、週1回しか許されない「宿直」だが、自分の勤務(常勤)する病院だけなく、医師不足のため、他の病院からも「宿直」を頼まれるなど、週2回以上当直をしているのが実状のようだ。

これを自分の身になって考えて欲しい。 例えば、あなたがメーカー工場のラインの仕事に就いているとしよう。 9〜17時まで働き、残業をした後、「宿直」で夜を徹して働き、次の日も17時まで働く。 しかもこの生産ラインは100種類の型番の製品がランダムに流れて来る。 次にどの型番の製品が来るのか知らされていない。 あなたは、来た製品をひと目で見て、組み立てる部材を判断しなければならない。 その部材も似たような形状のものが幾つもあり、微妙に取り付け位置が違うなど、型番によって全て異なる。 その上、不良品は1個も出してはいけないのだ。 1つでも不良品がでれば、あなたには、不良品1個につき数千万円の単位で損害賠償が請求される。 週休2日でも宿直が週2回ある、そんな職場だ。 年収は1000万円ほどか。 あなた、そんな職業に就きますか? まあ、年収がもう少し多い勤務医もいるだろうが、これが、概ね、勤務医の実態だろう。

現在の我々国民の命は、病院経営者が労働基準法等の法律を無視し、遵守していないことを知りながら、患者の命を救うために過酷な勤務に耐え、なんとか完全な医療崩壊に至らないよう踏みとどまるという「ものすごく価値判断が違う」医師(勤務医)の頑張りに頼っているに過ぎない。 彼らも人間だ。 彼らが倒れたら我々の救命医療も終焉を迎える。 

閑話休題

診療報酬(=麻生総理の言う点数)を上げれば良いだけの話ではない。 以前の記事、「労働者としては扱われないのか?」でも述べたが、医師の労働環境を整備すると共に、出産育児などで一線を退いた女性医師の復帰を図る研修制度(医療は日進月歩であり、医師免許があるからといって即一線で働けるものではない)などの政策を行うなど、とにかく、早急に全国的に必要な医師を確保し、医師というリソース全体を増やす方策を採るべきだろ。 今更医大生の定員数を増やしても、一人前の医師として第一線で活躍できるのは10年以上後のことだ。 


ちなみに、「これだけ激しくなってくると、医師会もいろいろ、厚生省も、5年前に必ずこういうことになりますよと申し上げて、そのまま答えがこないままになっている。」といった麻生総理の発言は、全く意味がわからない。 医師会が医学生の定員削減を求めたのは1970年代と聞くし、その後の更なる医師数削減を推進したのは、小泉厚生相以降の自民党政権であり、なにより小泉元首相が実行したのではないか。 自民党総裁選では小泉氏に破れたとはいえ、当時の総裁選でも、麻生氏が医療崩壊の警鐘を鳴らしていたという記憶はない。

麻生総理は「医者は友達にもいっぱいいるが、おれと波長が合わねえのが多い」と言うが、それは『類は友を呼ぶ』(=麻生総理も社会的常識がかなり欠落している)のか、それとも、一般的な常識を有する医師と波長の合わない麻生総理が「社会的常識がかなり欠落している」のかのどちらかだろう。(単なるヒニクです・苦笑)

※一部記事の追加修正を行いました(11/24 15:35)
posted by 少彦梛 at 23:38| Comment(0) | 医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。